ニーズDB:医師インタビュー
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佐田 政隆 先生
東京大学大学院医学系研究科
先端臨床医学開発講座(循環器内科)准教授
循環器内科

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1.ご専門の分野について

専門は循環器内科である。主な疾患は狭心症、心筋梗塞、冠動脈心疾患である。

実施頻度の高い手技はPCI(経皮的冠状動脈形成術)、閉塞疾患に対する各種治療である。おもに、バルーン、ステント、ロータブレータなどを用いた治療を行っている。
特に、虚血性心疾患に対するPCIが多い。その他の経皮的な治療として、バルーン弁形成術(Balloon Valvuloplasty)や、血栓に対するフィルターの留置なども行っている。当院での年間実施件数は580件で、内訳は急性が50例、待機が530例である。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)ステント
この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器としては、ステントがある。10年前はバルーンで狭窄部位を広げるのみだったが、高い再狭窄率(60~70%)が課題であった。1992~1993年にステントが使用されはじめ、再狭窄率が30~40%に低下した。2004年には再狭窄の防止が課題だったステントを改良した薬剤溶出ステントが使用されはじめ、再狭窄率は10%以下になった。しかし、薬剤溶出ステントついてはまだ多く問題があるので、すべての症例に使用されるわけではない。
(2)カテーテルアブレーション
心臓に関しては、不整脈治療のための心筋焼灼術は向上した。
(3)大動脈バルーンバンピング
大動脈バルーンバンピングは、この10年で著しく進歩した。
(4)カルテシステム
診断するためのカルテシステムは、この10年で著しく進歩した。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)血管超音波
血管を治療する際、血管の状態を知るために血管超音波を行うが、正確な診断ができない。血管の状態が細胞レベルでどうなっているか、解像度の向上が望まれる。
(2)カテーテル検査
カテーテル検査については、10年間で大きく進歩した。10年前は大腿動脈から挿入していたが、次に上腕動脈から挿入可能になり、現在は橈骨動脈からの挿入が可能になった。カテーテル径も以前は6~7Fr(フレンチ)だったものが4~6Frになり、穿刺の穴が小さくて済むようになった。
現在は血管内にカテーテルを入れるなどの検査は入院しないとできないが、低侵襲の観点からは、これらの検査が外来でできるようになるといいだろう。
(3)薬剤溶出ステント
薬剤溶出ステントは、正常な修復反応(再内皮化)の促進が課題である。現在は、ステントに塗布された薬剤が、ステント表面における再内皮化を抑制し、これが血栓症のリスクを高めている。患者は、血栓症を予防するために血小板抑制剤を飲み続けなくてはならない(通常のステントの場合は抗血小板薬の服用期間は約1ヶ月である)。服用は1日1回、1か月あたりの治療費は約1万円である。長期間にわたり薬剤服用のわずらわしさ、経済的な負担が伴う。また、抗血小板薬の服用中は血液が固まりにくくなることから、手術ができなくなる、事故などで大出血をしやすくなる、消化管出血(胃潰瘍など)を生じやすくなるなど、出血のリスクを抱えることになる。
(4)CT
冠動脈CTの技術も進んでいる。64列のMDCTの登場で高速で撮影できるようになり、冠動脈の撮像が可能になった。今後、冠動脈CTがさらに進展し、外来である程度の診断が可能になれば、多くの患者が検査のための入院をしなくてよくなる。
将来的には64列CTがカテーテル検査に置き換わる可能性もあるが、現在の技術水準ではCTはカテーテル検査ほどの精度がない。特に石灰化がある病変の内側を撮影できない、ポジティブかどうかがわからないなどの問題がある。今後256列CTが登場すれば、それらも解決されるかもしれない。また、心房細動や不整脈がある人では心電同期ができず、CTを使用できない。
(5)MRI
CTは被爆の問題があるため、臨床現場としては被爆のないMRIの高速化と高性能化を望んでいる。すでに脳領域ではMRIで頚動脈を撮像できるようになったが、心臓は拍動するため十分に解像度を得られない。高速化と高精度によって心領域でもMRI診断が可能になるだろう。
脳動脈瘤については、以前はX線を用いた血管造影検査(アンギオ)が必要だったが、MRAで破裂前の動脈瘤を診断できるようになった。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)心筋梗塞を予測する機器
実現が望まれる新規の医療機器は、心筋梗塞を予測する機器である。血管の破裂や急性の閉塞は、狭窄がなくても生じることがある。動脈硬化は血管の外側で起こるため、これを検出し、心筋梗塞の発症可能性を診断できる機器の実現が望まれる。
(2)新生血管の状態から動脈硬化を診断する技術
微細な新生血管の状態を検出し、動脈硬化の進行状況を診断できる技術も必要である。基礎的な研究によると、血管新生が動脈硬化の進行にある程度関与することがわかっている。既存の診断機器で血管新生を可視化できないため、これが実現すれば大きな進展である。
既存の機器で血管新生の様子を捉えられない理由は、血管内超音波内視鏡の挿入可能範囲のさらに奥に新生血管ができるために超音波が届かないこと、新生血管は顕微鏡で組織学的に観察されているほど細いため、現段階の血管内超音波内視鏡の解像度では検出できないことがあげられる。血管は一本の径が10~20ミクロンであり、一平方ミリメートルあたり何百本もある。それらの血管を定量化できる技術が今はない。
新生血管を検出する方法としては、血流の検出や、新生血管に特異的なインテグリンを使った分子イメージングなどが考えられる。
こうした技術ができることで、急性冠症候群(これまで何も症状のなかった人が突如、心筋梗塞を発症するといったケース)において、疾患を予測・予防できるようになる。
従来はトレッドミルやシンチグラフィで診断していたが、内腔が狭窄していない場合にはこうした症状は予測できない。これまで無症状で、既存の検査法で異常を検出できない人の診断が、現在、問題になっている。
しかし全ての人におこるわけではない。顕微鏡で組織学的にみれば特異的な変化が起こっている。それが炎症細胞の浸潤や新生血管などであることが分かっている。原理は分かっても、それを診断や治療に活用できていない。
(3)血管の性状を細胞レベルで確認できる技術
血管の性状を細胞レベルで確認できる技術がほしい。再狭窄が起こりにくいと判断できる場合は通常のステントを使用するが、現在の造影検査だけでは再狭窄を起こすかどうかを正確に判断できない。特定の細胞を蛍光染色する分子イメージング技術の開発が進められているが、臨床応用の段階にはない。今のところ組織顕微鏡と同程度の精度を得られるイメージング装置はない。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

大学(臨床系研究室)は基礎的な研究を行うが商品化する力がない。大学の研究の背景にある臨床側のニーズと、民間企業の工学的な技術力とをうまく組み合わせられるような仕組みが望まれる。
民間企業は、ある程度できたものを商品化するより、その前の段階から大学とコミュニケーションをとり、臨床側の要求を理解し、その理解に基づき、より基礎的な段階での投資をできるようになるとよい。


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